たかはし・ひでみね 1961年生まれ。ノンフィクション作家。2006年から開成高校硬式野球部を取材。2012年『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』を上梓。甲子園出場を確信して取材を続けている. 野球で登場しているのは、なんと東京の超難関私立・開成高校野球部監督の青木秀憲さんだ。元東大野球部員。東大大学院の修士、博士課程で体育理論を深めた専門家だ。飛騨シューレ立ち上げ当時からの付き合いだという。 本書では「100人の選手がいれば100 All rights reserved. 世の中にはユニークな人がいる。本書『子どもとスポーツのイイ関係』(大月書店)の著者でスポーツライターの山田ゆかりさんもその一人だ。米国インディアナ州立ボール大学に学び、ジョージア州立大学訪問研究員をしていたこともあるのだが、16年前、岐阜県飛騨市のウォークイベントに招かれたことがきっかけで、飛騨に住むようになる。そこでじっくり子どもたちのスポーツクラブに関わってきた体験が本書のもとになっている。, 山田さんは、子どもとスポーツの関係が近年、二極分解していると見ている。めんどうくさいからスポーツは苦手、嫌いだという子が増えている。一方では、真逆に、部活やスポーツ少年団では勝利至上主義がはびこり、運動をやらされすぎの子どもたちがいる。どちらのケースも、スポーツと子どもの関係がいびつになっている。, 山田さんが関わる「飛騨シューレ」は2005年にスタートした。当初は行政の受託事業でのちに民営化、岐阜県認定総合型地域スポーツクラブに成長した。現在は子ども30人余、大人40人、サポーター20人で構成されている。学年や性別、障がいの有無などにこだわらない活動を大切にしてきた。, 飛騨シューレの子ども向けプログラムの中で、「売り」は「スポーツワーク」。トップレベルのアスリートやコーチと子どもたちが遊ぶ。運動神経が鈍いといわれ、運動嫌いだった子どもの目が輝く。教え方が上手なので、できないと思っていたことができるようになるのだ。駄目だといわれていた子が自信を回復する。, 山田さんは地元の小学校で「健康教室」の授業も受け持ってきた。一年に300人ぐらいの子どもと9年間かかわってきたから、シューレ以外の子どもたちの様子も見てきた。そこでは、部活やスポーツ少年団の有力選手として期待されている子が、早くも故障を抱えている実態も知った。肘や膝を痛めているのだ。, 山田さんはスポーツライターとして長年、雑誌「アエラ」などで生真面目な記事を書いてきた。著書に『勝つ! ひと言――名監督・コーチの決めセリフ』(朝日新書)、『女性のからだとスポーツ』『女性アスリート・コーチングブック』(大月書店)などがある。スポーツを科学的な視点からとらえなおし、スポーツと女性、スポーツと子どもの関係などがテーマだ。翻訳の仕事もしていたし、米国留学などで海外事情にも詳しい。, 最近スポーツ界ではパワハラ、セクハラ、強引な指導が問題になっているが、山田さんは20年ほど前から問題提起を続けてきた。2000年には『スポーツ・ヒーローと性犯罪』(ジェフ・ベネディクト著、大修館書店)を翻訳、この方面についてはとくに詳しい。本書でも地域スポーツの現場ではびこる暴力・暴言支配、パワハラ、セクハラについて言及している。地方に行くほど、「勝利至上主義」の「カリスマ・コーチ」がやりたい放題らしい。親も引きずられ、子どもは我慢を強いられる。, 本書では「一流コーチたちの実践紹介」として、ソフトボール、テニス、柔道、ホッケー、バスケットボール、野球、サッカーの事例が取り上げられている。野球で登場しているのは、なんと東京の超難関私立・開成高校野球部監督の青木秀憲さんだ。元東大野球部員。東大大学院の修士、博士課程で体育理論を深めた専門家だ。飛騨シューレ立ち上げ当時からの付き合いだという。, 本書では「100人の選手がいれば100通りの指導法があります」という青木さんのメッセージが掲載されている。うるさ型が多いであろう開成高校野球部員を納得させる理詰めの指導法とはいかなるものか。野球に関心がある人は、ここだけ読んでも参考になるだろう。, 本欄では『女性アスリートの教科書』(主婦の友社)、『ジュニアスポーツコーチに知っておいてほしいこと』(勁草書房)なども紹介している。. 私はそう確信していた。バッティング練習では誰もが猛然としたスイングで次々と長打を飛ばしており、青木秀憲監督も「チームの戦力は(都内で)ベスト4」と太鼓判を押していたのである。, ちなみに開成高校硬式野球部のグラウンドでの練習は週1回。限られた練習時間で勝つために、彼らは守備を捨てて打撃に集中する。失点を覚悟の上、一気に大量得点を挙げてコールド勝ちを狙う。この独自のセオリーで激戦区の東東京予選でベスト16入りを果たしたこともあるのだ。実際、私は何度も開成打線の「爆発」を目にしているのだが、この5年間、初戦で敗退していた。爆発が間に合わなかったり、相手校に爆発されたり。私にはその原因が今ひとつわからなかったのだが、今年になって青木監督は驚くべき奇策を打ち出した。, 「戦力があるのになぜ試合で発揮できないのか。生徒たちが自分で考えないからです。指示を待っているから即座に的確な判断ができない。ならば生徒に監督をやらせる。ベンチの選手全員が監督になればいいんです」, 生徒たちが自らを監督する。その中心がキャッチャーの神取颯太郎君(3年生/高野連の規定で背番号のある選手は監督を兼任できないため、登録上の監督は2年生の横地駿太朗君)だ。, 大丈夫なのか? と不安がよぎったのだが、将来宇宙関係の仕事に就きたいという神取君は「野球は物理です」と断言した。この物理現象には「点差とは別次元の流れ」があり、「流れに気づき、修正を加えること」が重要だという。流れのパターンを読み取るそうで、「完璧はありませんが、最善の方法はあります」と実に頼もしいのだ。, 今年の初戦の相手は強豪校の安田学園だった。その完璧な守備を前に、開成ナインは臆することなくフルスイングで勝負を仕掛けた。1回裏に早くも2点を取られたが、3回表には神取君の二塁打を皮切りに開成打線が小爆発。宮﨑湧君らのヒットが続いて2点を取り返す。空振りが目立つものの、「球に当てようとするのではなく、当たるという前提で思い切り振る」という完璧なスイング。武井祐樹君などは打席途中で右打席にスイッチしながらも全力で振り回した。守備のほうもエラーこそあれ、被害は最小限で食い止め、ピッチャーは永田悠君、金子竜也君ら、のべ7人にものぼる継投で安田打線を翻弄した。ちなみに開成のピッチャーは「ストライクを入れる」ことが必要十分条件。フォアボールの連続などで試合を壊すことなく、全員が見事に投げ切っている。, 私は拳を握りしめた。8回表には3年生の地曵龍一君がレフト越えのホームランを打ち、いよいよ最終回での大爆発を予感したのだが、あろうことか8回裏に安田打線が爆発し、ツーランホームランまで浴びてしまった。, 突然試合が終わり、いつの間にそんなに点を取られていたのか、と私は呆気にとられたのである。, 試合後、青木先生は生徒たちを讃えた。まるで2回戦に進出するような口ぶりで、私も「勝った」ような気がした。振り返れば、開成は点差とは別次元でずっと勝っているようで、なぜ甲子園に行けないのか不思議なくらいである。, たかはし・ひでみね 1961年生まれ。ノンフィクション作家。2006年から開成高校硬式野球部を取材。2012年『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』を上梓。甲子園出場を確信して取材を続けている, 本サイトに掲載されているすべての文章・画像の著作権は講談社に帰属します。他サイトや他媒体への無断転載・複製行為は固く禁止します。. © 2018 Kodansha Ltd. All rights reserved. Copyright (c) J-CAST, Inc. 2004-2020. 東大野球部出身の青木監督。試合後は記者に囲まれた . 豪快なフルスイングで空振り。ベンチでは「全員監督」の生徒たちが並んで、じっと見守る, 試合終了時、キャッチャー神取君を先頭にベンチへ戻る開成高校の選手たち。放ったヒットは6本だった. 取材・文:髙橋 秀実.